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■安野モヨコのここが凄い「高い空間把握能力」

「安野モヨコ」・・・現在長期休養中で毎日新聞に掲載している「オチビサン」以外執筆活動をしていないのだが('09年2月現在)、今その才能が高く評価されているマンガ家。
代表作:「ハッピーマニア」「シュガシュガルーン」「働きマン」etc

 安野モヨコの描くマンガの評価については「キャラ立てがうまい」とか「絵がカッコイイ」とか「女の子がキレイ」とか「おしゃれ」とかいろいろありますが、nekotvはその中でも「演出力の高さ」をもっとも評価したい。安野モヨコって何が一番すごい?って聞かれたら迷わず「演出力」。これ以外ない。

 では、その「演出力」を生み出しているのは何なのか?ちなみに演出を辞書で引いてみると

演出:脚本やシナリオを元に劇や映画を効果的にまとめること (小学館新解国語辞典より)

 とあるが、つまり話を効果的に盛り上げること。じゃあマンガにおける「演出」っていうと、その具体的方法としては「トーン」「集中線」「効果音」「擬音」などが基本でしょう。 たとえばドラゴンボールではかめはめ波の発射時、その威力を読者に分かってもらうために濃密な集中線+ドウッなんて効果音を使っている。またベルサイユのバラではマリーアントワネットの美しさ、気高さを伝えるためにバラを回りに描いたり。ショックを受けたシーンでは背景で雷が落ちたりとか。

 こういったマンガならではの表現技法が多用されているのは執筆者側からみると実に便利だから。「ガーン」って擬音を見ると、読者は「ああ、このキャラはショックを受けて泣きそうなんだな」ってすぐ分かるし、額に怒りの四つ角(※)があれば「怒っているんだ」とすぐ分かる。長年、数多くのマンガで当たり前のように使用されて、読者側に十分その理解力、読解力が蓄積されているからなんです。

 そこで安野モヨコなんですが、この作家はいわゆるマンガ的表現技法に頼らないで演出するのが実にうまい。ものすごく巧い。ここで作例を元に解説しよう。


▲ ハッピーマニア10巻64P(4コマ目)・・・クリックすると拡大します

 加代子とフクちゃんと呼ばれる若い女二人、二人とも好きだった彼が去ってしまい、恋に破れたシーンです。注目すべきはこの最後の4コマめ、フクちゃんがマイクを握って歌っているところ。このコマが加代子とフクちゃんの今の全てを語っていよう。フクちゃんはややアゴを気持ち右に上げ、目線は中空へ。そしてカメラ(マンガにカメラは存在しないのだが、ここでは敢えてカメラと呼ぶ)は下から仰ぐように、腰から上へアングルをとっている。このコマから「辛い」「悲しい」「寂しい」といった情感がバシバシと伝わってくる。このコマのアングルが実にニクい。こっから広角/望遠側にどちらにも寄ったりする効果は半減だろうし、またちょっと角度が左右上下いづれにずれてもベストではないだろう。

 マンガ家は原稿を描く時、脳内にスタジオが出来上がっている。カメラや俳優の位置をぐるぐる回して自分が欲しい絵を探し出す。丹念に探し出す。ただ脳内のスタジオにも限界があって、動かせるようでなかなか動かせない。マンガ家は原稿を描く時は自分との戦いである。どれだけの引き出しを備えているかで戦いの行方は決まる。ただ連載作家になると、効率的に原稿を完成させないといけないため、自分の中である程度の演出パターンを固めてしまう。楽にトーンや効果音で済まそうとする(それが良いか悪いか置いておく)。

 安野モヨコの凄みは、実にアングル設定が自由で多彩なところだ。ココという時にコレしか無い!という絵をズバッと当ててくる。それを支えているのが 「高い空間把握能力」 きっと彼女の頭の中では上下左右720°全方位でカメラが動いているのだろう。生み出されたアングルは、ただそれだけで高い演出力を持っている。ここでほかの作例も見て欲しい。


▲ハッピーマニア3巻137P(1コマ目)・・・クリックすると拡大します


▲ジェリービーンズ5巻73P(1コマ目)・・・クリックすると拡大します

 解説するまでも無いだろう。バックはただの網目のスクリーントーン。効果音、擬音、集中線等一切無し。 だが、キャラの心情や現実がひしひしと伝わってくる。(ハッピーマニア10巻71Pも是非見て欲しい、鳥肌が立つページだ)

 彼女の漫画を読むときは是非、このアングル取りにも注目して欲しいところだ。

◆今回のマンガ
・ハッピーマニア

全11巻[amazon]

・ジェリービーンズ

全5巻(現在新装版全4巻で発売中)[amazon]

※怒りの四つ角

 

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